ランセット誌が設置した国際委員会は、今世紀末までに人類の健康を脅かす「相互に関連した17の深刻な脅威」を特定した。核戦争と、悪意ある人工知能(AI)の利用については、人類を絶滅に追い込む可能性があると指摘している。
「21世紀の世界的脅威と健康に関するランセット委員会」は、世界204の国・地域を対象に分析。各脅威によって、今世紀末までに健康に過ごせる期間がどれだけ失われるかを推計した。
委員会は、今から行動すれば脅威を抑えられると強調する。共同議長で、米ワシントン大学保健指標・評価研究所(IHME)所長のクリストファー・マレー氏は、「脅威の規模の大きさだけでなく、人類にはなお行動する力があるということが、今回の調査で明らかになった」と述べた。
肥満が最大の回避可能な健康損失
委員会は、世界疾病負担(GBD)研究のデータを用いて分析した。その結果、肥満によって今世紀末までに健康寿命が231億年分失われる可能性があり、肥満リスクを減らす政策によってこの損失を回避できると推計した。
ほかにも、サハラ以南のアフリカで特に深刻な低学歴は161億年分、所得格差は138億年分の健康寿命の損失につながる可能性がある。地球温暖化を4.4度に抑えた場合と比べて約1.8度に抑えられれば、健康寿命の損失を18億9,000万年分回避できるという。
委員会が挙げた脅威には、パンデミック、薬剤耐性、メンタルヘルスの悪化、高血圧、喫煙、子どもの栄養不良、高齢化に伴う健康問題なども含まれる。
悪意あるAI利用のリスクを抑えれば、健康寿命の損失を約104億年分回避できる可能性がある。また、核戦争を防げれば、約1億3,300万人の死亡を回避できると推計した。ただしマレー氏は、こうした事態には過去の事例がないため、「これらの推計は、ほかの脅威に関する推計よりも不確実性がはるかに大きい」と警告した。
委員会は、AIが危害をもたらす経路として、①生物兵器の開発を人々に支援する、②自律型兵器などのシステム障害を引き起こす、③高度なシステムに対する人間の制御が失われる、という三つの可能性を検討した。委員会が意見を聞いた予測専門家の間でも、AIが破局的な結果をもたらす可能性について見解は大きく分かれた。
委員会が示す三つの行動方針
委員会は、対策の柱として「備えを整える」「突破口となる解決策を後押しする」「脅威を継続的に追跡する」の三つを掲げた。
マレー氏は、各国政府がまず、「予測、予防、備え、保護に専用の能力を備えた、脅威に対応できる保健システムを構築し、資金を投じる」べきだと述べた。また、影響は資源の乏しい地域や社会的に周縁化された人々に最も重く及ぶ可能性があると指摘。「世界の健康は、経済成長の行方、特にサヘル地域を含むサハラ以南のアフリカの成長に大きく左右される」と語った。
付随する論説は、目的は脅威に固定的な順位を付けることではなく、「国際、地域、国家レベルの行動を促すこと」だとした。ランセット誌編集長のリチャード・ホートン氏は、「私たちの前には複数の危機がある。解決策も、その現実に見合うものでなければならない」と述べた。
報告書は、ベルリンで開幕する世界保健サミットを前に公表された。マレー氏は10月12日、調査結果に関するオンライン記者向け説明会を主導する予定だ。
国連人口基金(UNFPA)の前事務局長で、委員会の共同議長を務めるナタリア・カネム氏は、「最近の世界的な出来事は、安定がいかに急速に危機へと変わり得るか、そして災害が起きてから対応することがいかに大きな代償を伴うかを示している」と語った。そのうえで、「未来は決まっているわけではない」と強調した。






